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K:Q6、思い出残るウイスキーを教えてください。
堀上さん: 「グランツ」ですね。
K:グランツ、ええ、それはどうしてですか?
堀上さん:学生の時は殆どサワーばかり飲んでいたんですよ、チューハイとか。
K:ええ。
堀上さん:その頃サワーブームだったんですよね。ウイスキーとかも飲んでいるんですけど、それこそ「Q」とか、サントリー館で“原価サービス”になっていた「オールド」とか、そういうのを飲んでいたんですよ。正直そういったものはあまり美味しいとは思っていなかったんですよね。そんな頃にバイト先の2コ上位の先輩が、学生の割にやけにお金を持っていて、多分家がお金持だったんじゃないかと思うんですけど、学生の身からすると当時あんまり考えられないんですが、渋谷の東急インのラウンジに「グランツ」をキープしていたんですよ。
K:凄いですね。
堀上さん:80年代前半なんて、酒税改正前なので凄く高いんですよ。安い居酒屋でバイト仲間と飲んだ後、「もう一軒飲みに行くぞ!」って言われると、酒好きなのでそのまま素直に付いていく訳です。そうしたら、薄暗いホテルのラウンジに入って行って、学生としては「こんなところで飲むの?」というドキドキな感じだったのですが…。
K:そうですよね。
堀上さん:お店の人もその先輩を知っていて「いらっしゃいませ」と。「いつもの持って来て」と答えると、「グランツ」が出て来て、それを水割かなんかで飲んだんです。それがなんだかすっげー美味いって思ったんですよ。それまで飲んでいたウイスキーとちょっと違ったんですよね。美味いスコッチってのは、ホントに美味いんだなぁって凄く思って、今迄飲んでいたウイスキーってのはなんだったのかって思ったんですよね(笑)。
K:飲み方も違ったり、ありますものね。
堀上さん:そうですね。だからその時初めて“ウイスキーって凄いな”って思いました。今思えば「グランツ・ファミリーリザーブ」のランクだと思いますから、今だったら安いお酒ですよ。1000円位で買えますからね。ただ酒税法改定前で、ビジネスホテルとは言えホテルラウンジでのボトル・キープですから、かなり良いお値段したんですよ。その時の衝撃があるので、今でもグランツは僕の中では特別なお酒なんですよ。
K:こちらに置いてはあるのですか?
堀上さん:置いてないですね(苦笑)。
K:ご自宅に置いてあったりするのですか?
堀上さん:ええ。現行のファミリー・リザーブもたまに飲みます。後はよそのお店に行ってオールドのブレンデッドが置いてあるお店があったりするじゃないですか。以前に歌舞伎町のレンピッカさんに行ったら、グランツのオールドがあったので「それ飲んでも良いですか?」って、注文させて頂いて
K:ええ。思い出ですね、本当に。
堀上さん:流石に涙はこぼれないですけどね。僕は大学3年の時に初めての海外旅行でアメリカに行ったんですけど、帰りに免税店でグランツを買って来ました。「グランツは美味いんだ!」って、大事に飲みましたね。
K:やはりその時もお酒の出逢いがあったのですね。今のお仕事に繋がっているというのか、
堀上さん:それは本当に。だから「グランツ」は僕の中で特別なお酒ですね。
K:そういうものがあっていいですよね。有り難うございます。定番の質問になるのですが、
Q7今迄Barで感動した出来事、又思い出残る出来事を教えていただけますか?ご自分で飲みへいらっしゃった時でも宜しいですし、お店に立たれていた時でも構わないですし、
堀上さん:バーで一番記憶に残ってる思い出は、結構ネガティヴな出来事ですけど(笑)。20歳代半ばくらいに働いていた会社の偉い人に、「たまには飲みに連れてってやろう」と誘われました。その方が馴染みになっている新橋の大変老舗のBarに連れて行って頂いたんですよ。その頃はBarなんてそんなに行っていないですし、ただの若造の私には老舗の大変敷居の高そうなお店でした。そこで何だったかな、何を飲んだか忘れちゃったんですけど、ジンベースのカクテルを頂いて凄く美味しかったんですよ、ショートカクテルで。
K:ええ。
堀上さん:私は酒自体は強かったし、酒好きだったので、キューっと飲んで、美味しいなぁ、と素直に思ったんですよね。そうしたら会社の人に「お前もう飲んじゃったのか、なんかもっと飲むか?」って訊かれたので、「じゃ、おかわりお願いします」って答えたんです。そうしたらそのバーテンダーに「本気で言ってるの?」
K:え?
堀上さん:「本気で言っているのか?」って言われて、「ええ、おかわりお願いします」って答えたら、「本気なの?」ってもう一度訊くんですよ。なんかの冗談なのかなと思って、にこやかに「本気ですけど」ってもう一度答えたら、「何でお前みたいな若造に2回も振らなきゃいけないの?」って真顔で言われたんですよ。
K:え?
堀上さん:「え?」って思ってどうしていいか分からなくなってたら、連れて行ってくれた会社の偉い人が「まあまあ、若いヤツなんで許してやってよ、こういう所にあまり来た事がないからさ」って。
K:へえ。
堀上さん:そこで僕は、Barに対してかなり敷居が高くなってしまいましたよね。
K:Barで同じカクテルを頼んではいけないものなのですか?
堀上さん:いや、そういうことではないと思うんですけど、僕は未だに分からないんです。なぜあんな風に言われたのか、
K:逆に美味しかったから、いいのかと。それなら、「美味しかったんだ?でも別のカクテルも有りますよ」、という感じではなく?凄いですね、初めて聞きました。
堀上さん:「2回も振らねーよ」、って言われた。
K:その方疲れてしまったのですかね?
堀上さん:結構お歳の方ではあったんですけど。
K:お若い方ではなかったのですね。あ、老舗のBarですものね。
堀上さん:ええ、
K:意外ですね。
堀上さん:その時にBarに行くっていう事に対して、物凄く敷居が高くなってしまった。20代の頃ですけど。
K:そうですよね。今迄色々な方にインタビューさせて頂いておりますが、1度もそういうお話が出て来なかったので、逆にびっくりですよね。そういう経験をしている人もいなくはないですよね。もしかしたら、
堀上さん:はい、はい、
K:皆さん良い思い出ばかりだけではない、実際にそういう経験をしている人がいるかもしれない、ですよね。
堀上さん:似たような別の話もあるんです。これは僕は嫌な経験じゃないんですけど。30代の頃に馴染みになっていたお店でも、そういう事が1回あったんです。凄く混んでいる時に、僕が友達との話に夢中になっていたんですよ。そこでもショートカクテル—多分サイドカーか何かを飲んでいたんですが、話に夢中でお店の状態を何も考えずに「おかわり、同じもの」って言ったら、女性バーテンダーだったんですけど、「私に今振らせるの?」って言われた事があって(笑)。そこはちょくちょく顔を出してる馴染みのお店で、彼女は私が馴染み客だから言ったんですけど…。
K:状況を見られていなかったからですよね?
堀上さん:そうです。本当に友だちとの会話に没頭していて、お店の混雑状況も見ていなくて、オーダーが沢山入っててんてこ舞いになってるのにも気付いてなくて、〈あんたね、馴染みのくせして、それ位空気読めよ〉っていう、「私に今振らせるのね!」って彼女思ったんですよね。そう言われて「え?」って周り見て、「あ、ごめん、えっと…」何を頼んだか忘れてしまいましたが、何かのウイスキーを「ダブルでストレート」って頼んだ(笑)。
K:(笑)。夢中になっていると分からない事がありますからね。お話に入っていると。
堀上さん:ええ。
K:それはちょっと面白いですね。
堀上さん:さっきの話とは違う意味で。
K:違う意味での思い出になりますね。
堀上さん:「後…お水だけ貰っても良いかな?」って言ったら、「それで正解!」って言われたんですよ(笑)。
K:確かにそうですよね(笑)。
堀上さん:彼女からすれば、この状況であなたは分かってくれても良いじゃない。馴染みなんだから分かってよ、と。だからこそ言ってくれた。
K:先程のその2回もシェーカー振らない、と言うのは、空気など分からないですけどね。
堀上さん:そうですね。でも、私にはどっちも忘れられない思い出ですけどね。
K:(笑)有り難うございます。 (最終章へ続く) (6へ戻る)

※当時のインタビューのまま掲載、移行しております。
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